この登録を行おうと思った経緯は、米国のFP事務所を見学にいったことにあります。
米国のCFP は主にRIA(Registered Investment Advisor)という資格でSEC(米国証 券取引委員会・連邦政府機関)に登録をして、顧客に対する資産運用のアドバイスを行っ ています。
2009 年に初めて米国にFP 事務所の見学に行った際に
「マネーライフプランニングも米国のRIA 事務所のように、経営していきたい」 と強く思いました。
そして日本に戻って、調べてみると小規模事業者で一番米国RIA に近いイメージで運営で きる資格が投資助言・代理業でした。
【執筆者】
小屋 洋一 氏 CFP 認定者
株式会社マネーライフプランニング 代表取締役
2008 年11 月に創業し、13 年間にわたって個人の家計・資産のアドバイスを行う
2009 年から毎年米国や英国などを訪問し、海外の金融サービス業のありかたを参考にしながら日本の顧客にアドバイスサービスを届けている
投資助言・代理業の登録は2018 年5 月から開始
https://mlplanning.co.jp/
目次
投資助言・代理業の登録のハードル
しかし、日本において投資助言・代理業の登録は、主に下記の3つがハードルになると考 えています① 資金面でのハードル
法務局への500 万円の供託金が必要ですこれは創業当時に見えにくいかもしれませんが、投資助言業の登録を行うと事業が「金融 取引業者」のカテゴリに分類されます
そうすると、金融機関では一般的な事業法人とは区別されてしまい、率直に言えば銀行融 資が受けにくくなります。
弊社が経験したところでは
・保証協会の保証がつかえない(対象外業種)
・日本政策金融公庫の融資対象外
・商工会議所のマル経融資の対象外
など、多くの中小企業向け制度融資が利用しづらくなります。
一般的には、法務局への供託金も創業時に必要な資金として借入できそうなものですが、 上記の金融機関の対応により、その供託金の調達にも苦労することになります。
弊社の場合には、他の金融機関でプロパー融資を借りることができましたが、自己資金で 用意をしなければならないことも多いのではないでしょうか。
また、登録に行政書士のサポートを受けるという事であればその費用(弊社の場合 60 万 円程度)がかかります。それでもスムーズに取得したければサポートを受ける方が良いの ではないかと思います。
② コンプライアンス対応面でのハードル
最近の金融行政では、このコンプライアンス対応が可能な組織であるかどうかが登録の審 査ポイントになっていますしたがって、実務担当者とは別にコンプライアンス担当者が必要な組織体制である必要が 求められます。
そのために、小規模の事業者であると資金面・人員面からこうしたコンプライアンス体制 要件(過去に金融機関でコンプライアンス担当をしてきた人員を置く)を整えることが ハードルになっています
弊社では、外部の弁護士にコンプライアンス体制をサポートしてもらうことで何とか登録 することができました。
③ 代表者の人的要件
投資助言・代理業の制度はある程度株式や為替などの運用を前提に考えられているのでは ないかと思われます。したがって代表者あるいは助言者の経歴としても証券や為替の分野での専門性を確認されている印象があります。
小屋はたまたま証券アナリストを取得していましたが、単純にFP という事では厳しい面があるかもしれません。
投資助言・代理業のメリット
こうしたハードルを越えたうえで、何がビジネスのメリットになるのかを説明します。① 法的位置づけ(コンプライアンス)がしっかりする
日本でFP ビジネスを展開していると、アドバイスを行うとき常に業際問題(法律的に やっていいこと、悪いこと)を意識しながら活動することになります。具体的には弁護士、税理士、司法書士、行政書士などの士業との業際、そして金融商品に 及ぶ場合では金融商品仲介、保険媒介代理業、場合によっては宅地建物取引業などです。
弊社でも、投資助言代理業を取得する前は、金融商品仲介業や保険代理業の資格を持って ましたが、それは金融商品販売を行いたいのではなく、顧客に具体的なアドバイスを行う 為に「仕方なく」取得をしている資格でした。
その意味で、投資助言・代理業を取得したことで、金融商品仲介や保険代理店の資格を外 しても、金融商品の具体的な説明が可能になりましたので、ようやくライセンスの意味合 いと実務が合致して、仕事がやりやすくなり、顧客にもスムーズに説明ができるようにな りました。
② 希少性が強調できる
このコラムの執筆時点(2021 年11 月)現在、日本での投資助言・代理業者の数は 987 社です。この中でも大半は機関投資家向けのサービスで展開しており、個人向けかつFPサービス のように個人の家計を意識しながら助言を行う会社はごく少数です。
(小屋の感覚では20 社程度ではないかと思っています)
その意味合いでは、「日本でもライセンスを取って個人向けにサービスを提供している会 社は希少性がある」
ということを顧客に積極的にアピールしていくことにも役に立っています。
自社のブランディングも取りくみしやすい面があります。
③ ビジネスモデルが確立できる
独立FPの皆さんが最初に苦労するのは、ご自身のビジネスモデルの確立です。FP とは様々な仕事ができる代わりに、そのサービスをどのように価格付けし、顧客から報 酬をもらうのかという事も自分で決定していかなければなりません。
投資助言・代理業は、それなりに確立された業界ではありますので、契約書や報酬体系と いうものの参考になるものが存在します。
もしもFP としてのビジネスモデルやサービス・価格が決まらないという事であれば投資 助言・代理業の形式は一つ大きな参考になります。
最後に
投資助言・代理業の登録は、資産運用にかかわるアドバイスを行うFP であれば、しっか りと研究しておいていい対象だと思います。
上に述べたように、現在のところはコンプライアンス人員におけるハードルが高いと考え ています。
海外では、このコンプライアンスに関して、自社内に抱えるのではなく、外部にアウト ソースして登録をするという事も可能になってきています。
日本でも、こうしたコンプライアンス体制は外のサービスを利用しながら体制を整えると いうようなことが認められるようになってくれば、ハードルがずいぶん下がります。
将来的には、そのような可能性も出てくると思いますので、みなさんも一度しっかりと考 えられてみてはいかがでしょうか?