お客様との初回面談時は、傾聴の姿勢が大切とわかっていても、
「ヒアリングが浅かったので、質の低い提案をしてしまった。」
「ヒアリング前のアイスブレークだけで、面談時間がいっぱいになってしまい肝心な情報を聞きそびれた。」
「お客様のお話があっちこっちに飛んでしまい、まとめるのに苦労した。」
FPの方々には、このような経験をされている方も少なくないのではないでしょうか。
私は、大手金融機関の営業をしている時に、お客様から
「なぜあなたにこんなプライベートなこと言わなければいけないの?」
と言われたことが何度もあります。
FPの業務は「ニーズ把握が大事」とは言っても、むやみに、お客様のプライベートに踏み込むと、逆に距離が開いてしまう場合があります。
しかし、FPはお客様から正確な資産内容を聞かないと具体的な提案はできません。
医者が検査をしないと、診断ができないのと同じです。
この記事では、初対面のお客様から自然な形で資産内容等の重要な情報を開示していただくコツをお伝えします。
私は、この方法を行うことで、初回面談が始まって5分も経たないうちにお客様が、金額レベルの重要な情報をどんどんお話になられるということが何度も起きました。
ヒアリングがしっかりできれば、問題発見が容易になり、提案の幅が広がります。是非、ご参考にして下さい。
FPとしてやってはいけないヒアリング
〜初回面談にて〜
FP「はじめまして。〇〇様。ご預金はいくらお持ちですか?」
初回の面談で当然このような会話は許されません。
初対面のFPにいきなりこのように聞かれたら、
「ずいぶん、失礼な人だな。」
と思われるのが自然です。
だから多くのFPはまずアイスブレークを行います。
例えば下記のようにです。
FP「こんにちは、○○様。FPの□□と申します。今日はスーツケースをお持ちですが、ご出張だったのですか?」
お客様「はい、先ほど成田に着いたばかりですよ。」
FP「そうですか。それは、お疲れのところお時間とっていただき有難うございます。どちらの国に行かれていたのですか?」
お客様「今回は、中国です。」
(会話は続く)
このあと、話題は仕事の話、これまで行かれた国の話、趣味、家族、などにつながり会話は弾んでいきそうです。
しかし、このような楽しいお話の最中に、
「ところでご預金はいくらお持ちですか?」
と切り出すのは難しいものです。
「預金」や「年収」といった情報は、簡単に人に話す情報ではありません。
お客様のニーズが顕在化しており、こちらに助け舟を出されている時は、
何を質問しても答えて下さるでしょう。
しかし、お客様のニーズが顕在化しておらず、
「とりあえず、情報収集のために話を聞きに来た。」といったレベルの場合には、お客様が抱えている潜在的な問題を発見する必要があります。
問題を浮き彫りにしないと、お客様はこちらの提案を聞こうという気になりません。
そのため、お客様には預金残高など、普段他人には話をしていない情報まで、お話を頂く必要があります。
そのような本来秘密にされたい情報を自然な形でお話頂くために、
私は、「お客様に書いて頂くこと」をお願いしています。
“これ”を書いてもらうことで劇的にヒアリングが改善
具体的に何を書いて頂くかというと、
「バランスシート」です。
バランスシートをお客様に記入して頂くことで、預金、投資商品、保険、不動産、ローンなどの情報が得られることは言うまでもありません。
しかし、その内容を、FPが
「預金はいくらですか?」
「投信はいくら持っていますか?」
と聞いていくのではなく、お客様に記入して頂くということです。
バランスシートの空白を、埋めていくということです。
ここで重要なことは、埋めていく順番です。
最初は、答えやすい項目から埋めて頂き、預金残高などの一般的に答えにくい情報は最後に記入して頂きます。
例えばこのような形です。↓
〜アイスブレークが終わったら〜
FP「〇〇様。今後もご出張のお話、聞かせてください。
ところで、今日はご相談ということでお時間を頂いておりますが、こういうもの(バランスシート)って書かれたことありますか?」
お客様「あー、こういうのね。意外と書いたことないけど。書いてみようかな。」
FP「これ作ると整理できますよ。早速ですが、今、終身保険みたいに、掛け捨てではない保険はいくらありますか?」
お客様「500万円分はあるね。」(記入)
FP「投信や株はされてますか?」
お客様「やっているよ。1,000万円ずつはやってる。」(記入)
FP「住宅ローンはありますか?」
お客様「もう完済したよ。」(0で記入)
FP「ちなみに、この円の預金の項目ですが、保険も投資もしてないご資金はいくらぐらいですか?」
お客様「2,000万円くらい貯まって寝かしてあるよ。」(記入)
このような形で、バランスシートをお客様自身に埋めて頂きながら、会話をすると、資産内容が明らかになってきます。
「あなたの預金残高いくらですか?」
というストレートな質問をする必要はありません。
「差し支えなければ」
と、恐縮する必要もありません。
FPは、
「お客様がご自身の資産を整理するために、バランスシートの金額を埋めるお手伝いをする」という役割に徹するのです。
そうすることで、ヒアリングはスムーズになるのです。
※全てのお客様に適合する方法とは限りません。
FPとしての信頼をなくす失敗事例
このような「自分で書いて頂く方法」は、バランスシート以外にも、家計簿、年金の記録、保険の保証内容など、数多くの情報収集に有効です。
しかし、気をつけておいた方が良いこともあります。
それは
「ヒアリングシートが盛り沢山だと、提案のハードルが上がる」ということです。
何時間もかけて多くのシートの記入を終わらせたにも関わらず、FPからはイチオシの保険の勧誘が行われただけ、もしくはお薦めの投信の乗り換え勧誘があっただけだった、というのでは、FPの品位が疑われてしまいます。
お客様に手を動かしていただくのであれば、FPには相応の有益な提案を行う責任があります。
まとめ
金融商品の売り込みを主軸に置くFPの中には、
「ヒアリングは売り込みに必要な情報に留めてしまっている。」
という人も少なくないでしょう。
例えば、投信を販売するためには、お客様の掛け捨て保険の情報までは必要ないというのが実情です。
ただ、手数料の自由化の時代に、短絡的な売り込みだけで生きていくには限界があります。
今後、FPは、これまで以上に問題解決の提案力に力を注ぐ必要があります。
そうしなければ、ネットでも金融商品が買える時代を生き抜いていくことは難しいでしょう。
AIなどを利用した便利なサービスが生まれても、私たちがFPとして必要とされるためには、お客様の資産をしっかりと聞き取り、それを問題発見に役立て、質の高い提案に繋げていく能力が求められます。
【執筆者】
FP君