「お金の教育を小学生の子供にしたいのですが?」と相談された時にFPとして持っておく回答とは
Filed under: FP向記事
日本FPアドバイザーズ協会
「うちの子は小学生になります。そろそろお金の教育をしたいと考えているのですが、どう教えたら良いですか?」とお客様に聞かれたら、FPであるあなたはどのように答えますか?
少子高齢化、巨額の財政赤字を抱える日本の未来に危機感を感じ、「子供にお金のことを教えておきたい」と考える方は依然にも増して多くなってきたと感じます。
私はFPとして、子育て世代のお客様に対し、家庭でできる金融教育の方法についてアドバイスをしています。このコラムでは、私が金融教育を行うFPとして活動する中で得た知見を共有します。
【執筆者】
日本FPアドバイザーズ協会 副代表 遠藤功二
金融業界の経験を生かし、子育て世代の方々向けに金融商品を売らない、アドバイス特化のFPサービスを提供している。
金融教育サービスFP君 代表
CFP®︎、1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、MBA(経営学修士)
ウェブサイト:https://fpkun.com/
お問い合わせ・仕事の依頼:koji.endo@fpkun.com
金融教育熱は高まっている
私はほぼ毎月、子育て世代の方々向けに「家庭でできる金融教育法」をテーマにしたセミナーを開催しています。
金融教育法のセミナーは、「ライフプラン」や「投資」をテーマにしたセミナーよりも集まりが良いと感じています。
顧客ニーズはあるということです。
2021年の秋に、私はある自治体が主催する小学5〜6年生を対象にした株式投資セミナーの講師として登壇しました。
「小学生対象の投資教育」という、尖ったテーマであったにも関わらず多くの方に参加いただきました。
しかし、ニーズがあるにも関わらず、金融教育の市場は盛り上がりに欠けています。
なぜなら、金融教育は、金融機関にとっては儲かるテーマではないからです。
金融機関はお金を借りてくれる人か、お金を持っている人がターゲットです。金融教育では商売になりません。
また、金融教育は予備校、学習塾などの業界も手を出しにくいテーマです。
偏差値教育においては皆無、内申においても少ししか影響力を持ちません。
人はすぐに結果を求めます。銀行や証券会社にお金を預ければすぐに利益を期待しますし、子供を塾に通わせれば、すぐにテストの点数が上がることを望みます。
しかし、金融教育は結果がすぐには出ません。
子供たちが大人になり、社会人としてお金を稼ぐようになって初めて結果が出始めます。
本当に結果が明確になるのは、社会人になって10年〜20年程度が経ったころからではないでしょうか。
金融の知識は、子供たちの未来のために必要であるにもかかわらず、結果が出る時期があまりにも先であるため、供給サイド、需要サイド共に熱が上がらないテーマとなっています。
ただ、先述の通り一部の意識が高いお客様は、子供にお金のことを教えておきたいと考えています。
それゆえ、FPはお子様向けの金融教育法について、アドバイスができる知見を持っておくのが望ましいと私は考えています。
金融教育のアドバイスの流れ
お客様に金融教育の方法をアドバイスする際には、私は以下の順序を心がけています。
1、 金融教育の目的をヒアリングする
2、 方法論を伝える
3、 金融教育のデメリットを伝える
金融教育の目的をヒアリングする
お客様に「子供にお金のことをどう教えたらよいか」を聞かれたときには、「なぜ子供にお金のことを教えたいのか」を聞くことが大切です。
理由や目的がわかれば、アドバイスを具体化することができます。ヒアリングが大切であることは、他のFP業務と共通しています。
ヒアリングをすると様々な回答が返ってきます。
「物を大切にしてほしいから」
「貯畜の習慣をつけさせたいから」
など様々です。
方法論を伝える
お客様の金融教育の目的が明確になったら、方法論を伝えていきますが、先に前提をお伝えしておきます。
お金は基本的に「稼ぐ、貯める、使う」の順に私たちの手元に入ってきて、出ていきます。
「貯める」の派生として、「増やす」があります。
「金融教育=投資教育」と考える方がいますが、投資教育はあくまでも金融教育の一部です。
また、「使う」は必ずしも消費や浪費だけでなく、自己投資も含みます。
自己投資は自己実現や稼ぐ力のアップに繋がります。
これらの前提を元に具体的なアドバイスに繋げます。
例えば、「物を大切にする心を育みたい」ということであれば、①自分でお金を稼ぎ、②目的のためにお金を貯め、③貯めたお金を使う、という経験をすることでその心は育まれます。
ここでいう「稼ぐ」とは、家の中の範囲で仕事をしてみることをいいます。
仕事をしてお金を稼いでみると、子供たちはお金の大切さに気づくことができます。
そして、自分のお金で買い物をするようになると、必要なものとそうでないものを選択できるようになっていきます。
物を大切にする心を育むためには、買い与えるのを止め、「稼ぐ、貯める、使う」の流れを、体験を通して学ぶ機会を作ることが大切です。
次に「貯蓄の習慣を身につけさせたい」ということであれば、「収入―貯蓄=支出して良いお金」という算式を仕組み化する工夫が必要です。
大人であれば、給与天引きで貯蓄用または投資用の口座に自動振り込みの設定をしておく、という方法と同じです。
子供の場合は「貯める用の貯金箱」と「使う用の貯金箱」に分け、お小遣いはまず「貯める用の貯金箱」に一定額を入れ、残ったお金を「使う用の貯金箱」に入れるようにすれば貯蓄を仕組み化することができます。
さらに進化系として、「人のために使う貯金箱」も用意すると、寄付やプレゼントにお金を使うという視野も広がります。
お金を貯められるようになってきたら、「増やす」ことにも興味を持てるようになってきます。
「増やす」を教えることは難しくありません。
積み立て投資を理解しているお客様であれば、時期をみてお子様に「長期、積み立て、分散」の原理を伝えていただければ問題ありません。
金融教育のデメリットを伝える
実は、金融教育にはデメリットもあります。
私はデメリットの対処法も含めてお客様にアドバイスをしています。
例えば、「家の中の仕事でお金を稼ぐ」という体験をすると、子供が「お金をもらえないなら何もしない」と言い出すことがあります。
何をするにしても「お金をちょうだい」と言われ、嫌になったという声も聞きます。
このような現象の対処法は、「道徳教育をする」ことで対処できます。
私はセミナーで、「子供には仕事とは人を助けることであると教えましょう」といっています。
同時に「人助けが全てお金をもらう仕事ではないことも教えましょう」と伝えています。
例えば、電車でお年寄りに席を譲ったときには、お金がもらえません。ただ、親切はとても素晴らしいことです。
また、共同生活をしている以上、家事を協力するのは当たり前です。
子供には、道徳と金融教育をそれぞれ伝える必要があります。
「トイレ掃除」を子供の仕事とした場合、それはあくまでもお金を稼ぐことを学ぶためにやっているだけのことであり、家事の協力を否定するものではありません。
「お金を稼ぐための仕事」と「家事の協力」の線引きをするためには、「仕事リスト」を作ることが有効です。
「トイレ掃除」を「仕事リスト」に入れたならば、それ以外の家事は仕事ではなく、家族の一員として当然協力するものだということです。
ただ、このような線引きをしても、お客様によっては「どうしても家事と仕事を結びつけたくない」という方は多数いらっしゃいます。
教育方針は家庭によって様々なので、私は自分のアドバイスはあくまでも参考程度にして欲しいと伝えています。
いざとなったら金融リテラシーマップを参考にする
小学校、中学校、高校、大学という過程でどのようなことを学んでいくのが望ましいのだろう、と悩んだら金融広報中央委員会のウェブサイトに掲載されている「金融リテラシー・マップ」を見てみると良いでしょう。
金融リテラシー・マップは関係省庁や日本FP協会を含む金融関係団体によって設けられた金融経済教育推進会議で作成された、「最低限身につけるべき金融リテラシー」を体系化したものです。
「私は子供にお金のことを教えたことがないから、お客様にどう伝えて良いかわからない」という方は、金融リテラシーマップの内容を噛み砕いて伝えるだけでも、お客様への提供価値になります。